共有物分割訴訟「共有不動産の行方・・・」
2016.07.04更新
< 事 案 >
亡父は先祖代々の自宅の土地建物(以下「本件不動産」と言います。)を所有していましたが、とある事情から、本件不動産の所有権が金融機関に移転しました。しかし、その後、先祖代々の土地建物を失いたくないとの思いから、本件不動産を長男Y1、次男Xと、三男Y2の3名で各1/3ずつの割合で買い戻しました。自宅には、父が亡くなる前から長男Y1とその家族が住んでいます。他方、X及びY2はすでに別の場所で家族と暮らしています。
Xは持分1/3をY1に買い取ってもらいたいと考えておりますが、このような場合、どのようにすればいいのでしょうか。
< 問 題 点 >
① 本件不動産の持分を買い取ってもらえるか?
⇒共有物分割訴訟とは?
② 本件不動産の分割方法
< 回 答 ① >
本件不動産は、X、Y1、Y2の共有状態です。
共有者は共有物の分割をいつでも請求することができます。
分割の方法として持分の買取請求もできますので、XはY1に対して、自己の持分1/3を買い取る旨請求することができます。
それでは、Y1がXの要求に応じない場合はどのようにすればいいのでしょうか。
このような場合、Xは裁判所に共有物分割訴訟を提起することができます。
ただ、共有物分割訴訟は、各共有者間で分割方法を統一的に判断することが求められることから、すべての共有者を訴訟の当事者にしなければなりません。
したがって、XはY1のみならずY2も被告として訴訟提起をする必要があります。
< 回 答 ② >
共有物分割訴訟を提起した場合、本件不動産の分割方法はどのようになりますか。
共有物分割訴訟は、裁判所が裁量で分割方法を決定するため、必ずしも当事者の希望通りの判断になるとは限りません。
ただ、実務上、裁判所の判断方法は下記のとおりとなります。
(1)現物分割
まず、共有物の原則的な分割方法は、現物分割となります。例えば、一筆の土地を二筆の土地に分筆する方法です。ただ、本事例のように、土地上に居住用の建物があるなど分割によって土地の価格を著しく減少させるおそれがある場合には現物分割をすることは望ましくありません。
(2)換価分割
現物分割が望ましくない場合、換価分割という方法が考えられます。換価分割とは、共有物を競売で換価し、共有者の持分に応じて分割する方法です。ただ、本事例のように、土地上に居住用の建物があり、現に特定の共有者が居住しているような場合、競売で居宅を失うという酷な結果を招くことになり、妥当な解決にならないこともあります。
(3)価格賠償の方法による分割
実務では、現物分割や換価分割以外にも、下記の述べる特段の事情があるときは、価格賠償の方法による分割をすることができます。
価格賠償の方法による分割とは、本事例に即していえば、本件不動産に居住するY1に本件不動産を単独所有させるのと引き換えに、X及びY2に対して各持分に応じた価格を賠償させる方法をいいます。
< 参 考 >
判例は、価格賠償の方法による分割ができる特段の事情について以下のように考えています。
① 共有物の性質・形状、共有関係の発生原因等の事情を総合的に考慮し、共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められること
② 他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められること
そして、②が認められるためには、
㋐ 共有物の価格が適正に評価されていること
㋑ 共有物を取得する者に賠償金の支払能力があること
が必要になるとしています。
本件不動産については、もともと先祖代々の不動産として亡父、その後長男Y1が居住し、現在もY1とその家族が居住していること、X及びY2は本件不動産とは別に居住用の不動産があることなどから、Y1に取得させるのが相当であるといえます(①)。
本件不動産の価格が適正に評価され(②㋐)、かつ、Y1がX及びY2の持分に相当する賠償金を支払能力があれば(②㋑)、共有者間の実質的公平は害されないと認められるため、裁判所が価格賠償による分割を命じる判決を言い渡すことができることになります。
< 共有物分割訴訟のデメリット >
以上の通り、共有物分割訴訟は、裁判所の裁量によって分割方法が判断されてしまう可能性があり、自分の思い通りにはならない結果に終わることもあります。
さらに、共有物分割訴訟は不動産の価値を巡って意見が対立することも珍しくなく、長期化することもままあります。
したがって、特に不動産については、相続により共有状態となることがないよう、遺言を作成する等事前の対処が重要です。
< 勘 処 >
・不動産の共有状態を作らないよう事前に対処をすべし!
遺言一般については、こちら
不動産の相続については、こちら
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